林 隆智は、長考している。
これまでどんな場面でも、軽口を叩きながら、軽快にプレイしていたのが嘘のように。
林 隆智は、長考している。
占術ランドで確認した《荒野の収穫者/Reaper of the Wilds(THS)》を前に。
思い返してみれば、林は、圧倒的なパフォーマンスであった。
ここまでの8戦を16-0と、完璧な形で勝利してきている。
それは、『運』という言葉からは無縁の、地道で正確なプレイの積み重ねに他ならない。
苦しい場面でも割り切らず、石橋を叩きながら、次の一手をプレイしていく。
決勝でも同様に、舞い上がらず淡々とプレイしていた。
Game1では、椎野が、先手を最大限に生かし、《道の探求者/Seeker of the Way(KTK)》、《ゴブリンの熟練扇動者/Goblin Rabblemaster(M15)》と展開するが、テンポ除去で場を平らにすると、高コストカードを《軽蔑的な一撃/Disdainful Stroke(KTK)》でカウンターし、《時を越えた探索/Dig Through Time(KTK)》から《精霊龍、ウギン/Ugin, the Spirit Dragon(FRF)》へと繋げる、18番。このまま林が押し切ると、見ていた誰もが思ったことだろう。
だが、林はあまりに高く飛びすぎた。
Game2でも、同様に軽量除去から入って、《否認/Negate(M15)》を握り締めながら、《部族養い/Feed the Clan(KTK)》で二桁のライフを確保する。
《灰雲のフェニックス/Ashcloud Phoenix(KTK)》に対する回答はないが、時間さえあれば、除去なり、《荒ぶる波濤、キオーラ/Kiora, the Crashing Wave(BNG)》なり、何より《時を越えた探索/Dig Through Time(KTK)》が回答を届けてくれるはずであった。
そこへ垂直落下してきた《嵐の息吹のドラゴン/Stormbreath Dragon(THS)》が合わさると、林は本日初めて自分からゲームを畳んだ。
翼の溶けたウギンは地へと落ちていき、これまた本日初めて「先行」を宣言した。
林 雅智は長考している。
7枚目として《疾病の神殿/Temple of Malady(JOU)》を置いた時から。
盤面には土地のみ、ライフは二桁残した状態で、中盤へたどり着いた。
しかし勝ちを確信するには、まだ足りない。《時を越えた探索/Dig Through Time(KTK)》を引き込めていない。
危ういバランスを、『勝利』の二文字に変えるその1枚、《時を越えた探索/Dig Through Time(KTK)》が、まだ手札にない。
だから林は、《荒野の収穫者/Reaper of the Wilds(THS)》をボトムへ送った。
そしてその占術が、勝敗を分けた。
椎野のキャストした《オレスコスの王、ブリマーズ/Brimaz, King of Oreskos(BNG)》へ《スゥルタイの魔除け/Sultai Charm(KTK)》をキャストした直後、再び垂直落下してきたのは、《嵐の息吹のドラゴン/Stormbreath Dragon(THS)》であった。
《荒野の収穫者/Reaper of the Wilds(THS)》が持つ意味は、2つあった。
1つ目は、除去の温存。実際《荒野の収穫者/Reaper of the Wilds(THS)》があれば、林は《スゥルタイの魔除け/Sultai Charm(KTK)》を手札に抱えたままだろう。
2つ目は、クリーチャーが墓地に落ちることで占術が誘発するため、《時を越えた探索/Dig Through Time(KTK)》へのアクセスを短縮できたということだ。
「負けました」
敗北を認めた林のライブラリーには、渇望していた《時を越えた探索/Dig Through Time(KTK)》が鎮座していたが、天を仰ぐともせず、淡々と答えてくれた。
「運ではない。自分は、ミスしたから負けた。それ以上でもそれ以下でもなく、ただただ自分が弱かった。」
《時を越えた探索/Dig Through Time(KTK)》を引けなかったから。
《嵐の息吹のドラゴン/Stormbreath Dragon(THS)》をトップデックされたから。
言い訳など、する気になれば、限りなくできるはずだ。
それでも林は言った、「敗北したのは、自分のミスのためだ」と。
『敗北から学ぶプレイヤーは、強くなる。』とは、誰の言葉だったか。
だからきっと、林は、バンクーバーの舞台にいるに違いない。
今日の敗北は、明日の勝利へと繋がるから。
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